トスカーナを離れてわかったこと(3)
そのトスカーナへの郷愁を埋めるために、古代ローマやギリシャ文化に想いを馳せて創った作品が、"海が聴こえる"シリーズ となりました。
以下が ↓2005年に大阪の楓ギャラリーさんで開いた個展に私が寄せた文です。
"海が聴こえる"
南イタリアには古代ギリシャやアラブ・ノルマンディーなどの異国文化の影響を受けた芸術が数多く残っています。
それらはすべて地中海を通じて伝えられました。
スペイン、シチリア、ギリシャ、イタリア等々、現在では国は別々ですが、古代にはそれらの地中海沿岸地域は一つの大きな文化圏だったのです。
トスカーナで11年間暮らした後、南伊に移り、同じイタリアでも大きな気風の違いがあるのに驚きました。
人々は古代の昔より海を愛し、変わることなくゆったりと暮らしています。
太陽・月・星・海…自然が静かなリズムを奏でています。
そんな中でこれらの作品は生まれました。
「月が昇った」 90x150cm 岩・泥絵具と銀箔
人間万事塞翁が馬、 とはこのことで、この作品が縁でイタリアのある美術評論家と知り合うことになり、幾つかの企画展にも参加しました。
僭越ながら紹介しますと、その評論が以下です。↓
「私はひとりのアーチストです。- クミコ・ハシヅメは言う。- しかし人間として、平和のための文化を流布することに無関心ではいられないのです。」
クミコ、日本人画家、京都の美術大学とフィレンツェのアカデミアで学び、日本画とイタリア絵画の融合を東洋の哲学を基盤にして図る。
彼女の作品は空・木々・雲などの自然的要因と教会・トスカーナ地方の建物などの建築的要素がゆるぎなく一つの調和を形づくっている。
ある作品ではシュールレアリズムの愛撫するような手法によって夢かうつつの世界が描き出される。それは、無理やり引き出された色彩表現ではなく、深い思考から導き出されたものである。
”月が昇った”では砂の材質そのもので描きこまれた円柱と貝殻そしてアーチ・海・空が影のような雲に巻き込まれながら調和する。左手の地平線上には小さな月が、あたかも唇を微かに動かしてこぼれ出るささやきのように現れる。
最高級の白ワインとドビュッシーの前奏曲に伴われながら、クミコ・ハシヅメの絵は言葉の遊びと空想へといざなう。
美術評論家 ジャーダ・カリエンド
「貝の時間 Ⅰ 」 6F(41x31.8cm) 岩・泥絵具と金箔
「貝の時間 Ⅱ 」 6F(41x31.8cm) 岩・泥絵具と銀箔
「海が聴こえる」 3F(27.3x22cm) 岩・泥絵具と銀箔
「海の向こうへ」 SM(22.7x16.6cm) 岩・泥絵具と銀箔
この5点を含めて、約30点の新作品を並べた、楓ギャラリーさんでの個展は、今から思えば私にとって反転攻勢だったと思います。
これをもって、このシリーズは一応終わりまして、南伊については又折々に述べていきます。