芸術作品の修復 3
一流の修復を行うには、ただ作品の表面を見るのではなく、その中に多くの事柄を発見し、
最良の方法を導き出すセンスが必要だと思う。
対処療法ではなく、将来に渡り、その作品が持つ力を保ち続けるようにしなくてはいけないのです。
チェーザレ・ブランディが言いたかった、<芸術作品の潜在的調和unità potenziale >とはこのことだと思います。
大きな美術館になると所蔵作品の修復が終わった後に必ず修復レポートというのが発刊される。
実はこれは、ただの修復レポートなんていうものではないのです。
後進の人達の研究のために非常に役立っているのです。
ウフィツィ美術館より出版された、収蔵作品のジォット作「オッニサンティのマエスタ」分析・修復レポート。
Giotto "Maestà d'Ognissanti "
内容は17人の研究・修復家による各分野からのこの作品に関する論文集です。
少し内容を紹介すると…
・この作品が置かれていたオッ二サンティ教会の内部構造と、どういう配置で、他のどのような作品と共に飾られていたか。←建築・インテリア学
・作品に使われている色彩の意味と図像学について。
・オッニサンティ教会を設立したウミリアーティ会のフィレンツェへの定住について。←歴史
・ 作品の木製の支柱について(どんな樹が使われ、どいう風に組み合わされて、どういう状態等々)←植物学と構造学
・作品の顔料に含まれている有機物質について←化学
・作品像の診断学
等々...
まだまだありますが専門的な事柄なので省きます。
このようにひとつの作品の修復を実行することによって多くの事実が明らかになります。
本題からは外れますが、
私が個人的に興味深かったのは、額縁の部分やマドンナや天使の光輪部分に東洋系言語の文字が装飾として使われており、
そしてマドンナの顔が東洋人的特徴を持った顔立ちだというような事を指摘している論文でした。
これは我見ですが、当時は私達が想像する以上に東洋との交流が盛んであったのではないか?と思うのです。
このことについてはまた別の機会に言及したいと思います。
続く。