オリジナル性ということ(続き)

前回の続きです。

私は学者ではないので、ここで学術的なことを書くつもりはありません。
史実に基づいたうえで、制作する中で考えていることを中心に綴っていきたいと思っています。

さて、レオン・バッティスタ・アルベルティ(1404~1472)の残したものは、建築だけではなく、音楽、文学、哲学、数学、絵画理論等々多岐にわたっています。まさに知性と理性のルネサンス人の典型。

レオン・バッティスタ・アルベルティ作 サンタ・マリア・ノヴェッラ教会 正面(部分)

日本ではレオナルド・ダ・ビンチ(1452~1519)が万能の天才ということになっていますが、それに先駆けてより完成された仕事を残したという意味では、レオナルドを凌駕していると私は考えています。

同作  ルチェライ家宮殿 (部分)

ピエロ・デッラ・フランチェスカ(1412~1492)は彼の絵画論理にしたがって研鑽を積みました。

ピエロ・デッラ・フランチェスカ作  円柱頭部 習作


同作  男性頭部 習作


遠近法(透視画法)を生み出したということがルネサンス芸術の特長のひとつですが、実際には人間の目が見る現実とは違うということは既に周知の通りです。

ピエロ・デッラ・フランチェスカ ?  透視画法による広場の景観



そのことを藤沢道郎先生が実に的確に表現されているのでご紹介したいと思います。

「遠近法とは、俗に信じられているように自然をより忠実に模写する方法でも、二次元の平面に奥行きの錯覚を作り出す技術でもなくて、人間の理性が自然空間や視覚のあらゆる偶然性を排除して合理的に空間を把握し構築するための、 整序された単一のシステムである。」 ”物語イタリアの歴史”より

同作  受胎告知(聖十字架物語) 部分 1462~63年頃


しかしそれにもかかわらず、ピエロの作品から私が受ける印象は幾何学的な冷たいものではないのです。

セニガッリアの聖母 (部分) 1474~79年頃

聖母マリアなどの目を伏した中性的な顔つきはまるで仏像のように思惟的で、袖や肩のふっくらとした、ウエストのくびれのない形はまるでナイーフ派のそれのようです。

当時流行りのネオプラトニズムの甘美で抒情的なものでもない。これは明らかに他のルネサンスの画家とは異なるものです。

ここに私は彼の稀なるオリジナル性と精神性を感じます。

華やかな都フィレンツェに住むことを好まず、生涯の大半を生まれ故郷の小さなトスカーナの村、ボルゴ・サン・セポルクロで過ごしたのです。

そして近年になるまで、彼の作品ほど一部のファンを除き過小評価されたものはなかったと思います。

中世・ルネサンス音楽を現代に蘇らせた、イタリアの鬼才アンジェエロ・ブランドゥアルディをご紹介します。

”カレンダ・マーヤ”